書店TORCHのブック・エッセイ #06『RIOT(ライオット)』 2024.12.28
10月から11月にかけて、南伊豆町・下賀茂のゲストハウス「ローカル×ローカル」と一緒に「秋の文化部」という企画を実施した。計三回のイベントでは、それぞれ講師のかたの伴走のもと《物語(脚本)》《ロゴデザイン》《ZINE(ジン)》をつくる。「作ってみたい」「形にしたい」想いがある、そんな人にとって、一緒に一歩踏み出すことができるような場になればいいと思って開催した。
はたして、各地から集まった参加者のかたがたの熱量はこちらが圧倒されてしまうほどで、合宿当日は夜中、あるいは朝早くからそれぞれの作業に没頭したり、お互いの作品について褒め称えあうといった光景に、胸が熱くなる想いがした。皆さんの姿に触発され、そこから新しい作品が誕生する瞬間もあった。《やってみたい》という情熱が持つ、原始的な推進力を存分に浴びれたような日々だった。
この文章を読んでいただいているかたで、そもそも《ZINE》ってなんだと疑問に思ったり、よく伝わらないなと思うかたがいるかもしれない。そんな折に、ちょうど先日単行本が発売されたばかりの漫画を紹介したい。
物語の舞台は海と山が近い、どこかの小さな町(南伊豆町の隣町、松崎町がモデルではと言われている)。高校生の「アンジ」は退屈な日常に「爆発するほどの刺激」を求め、学校で自作のTシャツを販売したりするも、閉塞感から逃れられずにいる。同級生の「シャンハイ」は『POPEYE』などのカルチャー雑誌に憧れを抱きながら、今日も屋上から学校を眺めている。そんなシャンハイの持つ独特な感性に触れ、アンジは「雑誌作ったら?」と提案する。
「俺はいつもお前の話を楽しみにしてるんだ。」
「みんながどうでもいいと思ってることに気づけるお前は面白い!」
——塚田ゆうた『RIOT』1巻(2024年)P.30
共に雑誌をつくることを決めたシャンハイとアンジは、溢れ出た想いをスマホに打ち込み、印刷し、雑誌の切り抜きを貼り付けて完成させた誌面をコピー機で量産しはじめる。それは、まだ二人が《ZINE》という言葉にすら出会う前。もっと多くの人に見てもらいたいと、持ち込みに訪れた雑貨店のオーナーから、二人は初めてその単語を聞く。
《ZINE》とはもともと、“Magazine(雑誌)”や“Fanzine(同人誌)”から派生した言葉で、明確な定義付けは難しいけれど、主に個人や少人数のグループによって制作された自主的な出版物を指す。出版物と言ってもその形態もさまざまで、冊子のようなものから一枚ものの紙面だったり、内容も小説から漫画からイラスト、写真集であろうと自由だ。製本だって、印刷所に依頼しても、自ら印刷してホチキスやミシンなどで留めてもいい。そもそも手書きだって問題ない。
『RIOT』作中でシャンハイとアンジが最初に作るZINEは、編集用の専門ソフトはおろかPCも使わず、高校生の彼らの手元にある限られた道具を駆使して作られていく。そこには「これが無いから作れない」「あれができないと進めない」といった、陥りがちな錯覚や障壁もぶち壊して進んでいく衝動の力がある。それはまさに “Riot” 、革命を起こす力なのだろう。
作って、反省点を見つけたら、また作ればいい。まず《やってみる》こと、まだ名前も知らないものを形にしていく情熱の温度。歩き始めたばかりの道のりの途方もなさ、泥臭さ、それを歩んだ者だけが見ることができる、その先の景色。それはZINE作りに限らず、創作でもスポーツでも商売でも、すべての小さな《やってみる》の革命が抱える光ではないかと思う。
もちろん、たった一人で革命を起こしたっていい。けれど、アンジとシャンハイがお互いの面白さを見つけたように、もしかしたら最初の一歩、どう踏み出すかを誰かと一緒に探していく、そんな機会があってもいい。そんな風に、《やってみる》を後押しするような企画をこれからも作っていけたらと考えている。
書店TORCH
所在地:静岡県賀茂郡南伊豆町下賀茂839-4
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