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コーヒーを介して集う“まちの交差点に。” moksa coffee店主〜服部文雄さん〜

こんにちは。『南伊豆新聞』編集部の多田です。

私は南伊豆に3ヶ月滞在しながら、このまちの魅力を発信する、編集プログラムに参加しています。

詳しい自己紹介は、よろしければこちらの記事をご覧ください。
私の南伊豆留職日記vol.01:タダ サチノ【ローカル編集者としてやってきました】

今回の記事は、私が滞在中に出会った “気になる人” を訪ねていくインタビュー企画です。

海と山に囲まれた南伊豆で暮らす人々。

あなたは「普段どんなことをしているの?」「このまちのすきなところは?」など。

インタビューを通して、南伊豆の新たな魅力が見えてくるかもしれません。

蝶ヶ野にある古民家「moksa coffee」

南伊豆町蝶ヶ野(ちょうがの)にある、バス停の向かい側。山に囲まれた緩やかな坂道を進むと、一軒の古民家が見えてきます。

「moksa(モクサ)」と書かれた入口を進むと、店内はコーヒーの芳ばしい香りが…。

今回お話を伺ったのは、東京都 国分寺と南伊豆町で、2拠点生活を行っている服部 文雄さん。

服部さんは、国分寺と南伊豆町で「moksa coffee」を2店舗営んでいます。

2023年4月現在は、コーヒー豆の販売をメインとしている南伊豆のmoksa coffee。夏にかけて、コーヒースタンドになる予定です。

1号店は、アクセスの良い東京都に店舗を構えているmoksa coffee。

それに対して、車通りはあるものの、人通りが多いとは言いがたい蝶ヶ野エリアで、どうして2店舗目をオープンしようと思ったのだろう。

今回は、南伊豆町でコーヒー屋を始めた背景や、お店のこだわり、この土地での暮らしについて、服部さんからお話を伺いました。

厳選の一杯と、好きを詰め込んだ空間で

店内に入るとすぐに目に留まるのが、豆の種類の豊富さ。

常時12種類ほどの豆を揃えている店頭では、オリジナルブレンドを始め、エチオピア、マンデリン、グアテマラなど、世界各国のコーヒー豆が販売されている。

生豆(きまめ)を厳選するところから焙煎、ハンドドリップまで、すべて服部さんがおこなっているmoksa coffee。フルーティーな浅煎りのコーヒーから、コクのある深煎りのコーヒーまで、さまざまな風味を味わえるのが特徴的だ。

服部さん:「豆はスペシャリティコーヒーの中でも、さらに上位5%しかとれない最良品だけを使っているんだよ」。

スペシャリティコーヒーとは、世界的に統一されている基準を満たした、品質の高い豆のこと。味や香りなどの評価に加え、流通経路の明確性など、さまざまな審査項目を通過した豆のみが認可されている。

その中でも、ご自身で厳選し、納得した豆のみを取り扱う服部さん。

服部さん:「コーヒーを淹れてくるから、ちょっと待っていてね」。

淹れてもらったのは、ニカラグアのコーヒー。ほどよい酸味がありつつも、後に甘みが口に広がるような味わいだ。

店内は、コーヒーと薪ストーブの香りがする。

大工の友人と共につくったこのストーブは、服部さんもお気に入りなのだとか。

服部さん:「薪ストーブって、めちゃめちゃ良いでしょ。薪ストーブが気兼ねなくできるから、南伊豆に住んでるってくらい、この火の感じが好きなんだよね」。

服部さんたちは薪ストーブ以外にも、インテリアの選定や、古民家のリノベーションなど自分たちで行っている。

たとえば、レジの前に置いてある打楽器。

店にあまりにも馴染んでいたので、インテリアとして飾られているのかと思ったが、実際に服部さんが演奏するもの。ときどき友人やお客さんとセッションすることもあるそうだ。

他にもこだわっているのが、店内の照明。

服部さん:「もともと天井に4つ吊るしていたんだけど、少し明るすぎるかなと思って。1つ減らしてみたら、トライアングルみたいになってバランスが取れていると思わない?」。

玄関の照明は、温かみのある色味だが、LEDライトを利用しているのだそう。環境にも配慮しながら、お客さんをあたたかく出迎えてくれる。全て服部さんが選んだものだ。

服部さん:「この場所には、好きだと思ったものを詰め込んでいるよ。自分の秘密基地をつくる感覚かな」。

もともと服部さんは、照明などを扱う電気設備会社で10年ほど働いていた。

なるほど、店内の照明のこだわりは、そこからくるのか・・・。

好きなことがわからなかった会社員時代

服部さんと話していると、好きなものが明確な印象を受ける。しかし、会社に勤めていた10年の間はそうではなかったという。

服部さん:「大学時代、周りの友だちがみんな就活し始めて、僕だけ取り残されている感覚があったんだ。父親も会社員だったし、それ以外の生き方を知らなかったから、とりあえず皆と同じように就職をしたんだよね。でも本当は、最初から会社員になりたいわけじゃなくてね。バックパッカーの友人を羨ましく思っていたよ」。

服部さん:「今じゃコーヒー屋で人と関わる仕事をしているけど・・・。会社に勤めていたときは、自分の好きなものがわからないし、伝えられないから、人と会うのが嫌でね。そんな自分を見て見ぬふりするために、毎日仕事ばかりしていた。でも、10年勤めて心が病んだおかげで、ようやく仕事を辞められたんだ」。

会社を辞めてから真っ先に始めたのは旅行。日本国内外の旅先で、ヨガに触れた服部さんは、レッスンを受けたり、瞑想を取り入れてみたりと、自分と向き合い、心身が浄化される感覚に、心地よさを感じたそうだ。

服部さん:「ただ、会社を辞めて4年くらいかな。『好きなことばっかりやっていてもダメだな』と思ったんだよね。『趣味と仕事、両方必要だな』って。そこで、人に喜んでもらえるような仕事がしたいと考えるようになったんだ」。

その頃に出会ったのが、国分寺にある『Life Size Cribe』というコーヒーロースター。

コーヒーの美味しさに衝撃を受けた服部さんは、他のコーヒー屋さんも巡るようになった。

それから服部さんは、自分に合った師匠を見つけ、焙煎を学ぶ。試行錯誤の末、「これなら人を喜ばせることができる」と思い、2019年に国分寺でmoksa coffeeの焙煎所をオープンした。

とはいえ、当時は南伊豆で2店舗目を構えるとは思っていなかったという。

場所を開くということ

服部さん:「南伊豆に初めて来たのは、友だちの家に遊びに行ったときかな。その時はこの場所に住むなんて思ってもなかったよ。『都会最高』って思っていたしなぁ」

そんな服部さんだったが、その後も友人の家を訪れたり、サーフィンに通うようになったり。南伊豆がだんだんと身近になっていった。

服部さん:「最初はパートナーが南伊豆を気に入ってね、空き家バンクに通い始めたんだ。僕はついていった程度だったんだけど、土間のあるこの物件に出会って、一目惚れしちゃったんだよね。思い切って別荘として借りることを決めたんだ」。

その頃は、南伊豆でコーヒー屋さんをやることは考えておらず、別荘として数年間利用していたそうだ。

服部さん:「でも、だんだん南伊豆に場があることで、みんなが焚き火をやりに来たり、リノベーションを手伝いに集まるようになってさ。場所を開くって面白いなと思ったの」。

そこから服部さんは、2号店をつくろうと決意した。

服部さん:「場所を作り始めて、本当に楽しいよ。これまでは、非日常を味わうために旅行していたんだけど、今はここで店を作ったり、楽器を弾いたり。日常の中に刺激がある。だから、あんまりこの場所から出たいと思わなくなった。場があることによって、人も集まってくれるしね」。

混じり合い、語り合うまちの交差点に

服部さん:「今後はここをゲストハウスにしたいと思っているんだよね。コーヒー好きな人たちが集まる場になったら面白いなと思っている」。

コーヒーを通じて、このまちの人やバックパッカー、観光の人が混じり合う空間になるのが理想だと話す服部さん。

最後に、服部さんにとって「南伊豆の好きなところはなんですか?」と尋ねてみた。

服部さん:「そうだな。南伊豆自体が好きというか、今関わってるこのまちの人たちがおもしろいかな。それは、みんな自分軸の“好き”という感覚をしっかり研ぎ澄ませているからだと思う。今、僕がつくっている場所を通して関わっている人たちのことが好きなんだよね」。

店主の“好き”が、溢れた空間

moksa coffeeに行くと、いつも時間の流れがゆっくりしているように感じる。

それは、こだわりのあるコーヒーを味わって飲むことや、落ち着いた照明の中でのんびりすること。そして心地よい音楽など、さまざまな要素が含まれていると思う。

蝶ヶ野にあるmoksa coffee。こだわりのある美味しいコーヒーをゆっくり飲みながら、この店に集う人たちと談笑したい。そんな人たちにおすすめしたいお店です。

行く度に、新しいインテリアが増えていたり、楽器を演奏している方がいたり、遊び心満載のmoksa coffee。コーヒースタンドのオープンが待ち遠しいです。

編集部:多田 祥野

【moksa coffee】
場所:415-0314 静岡県賀茂郡南伊豆町蝶ケ野158-4
営業時間:木曜〜火曜:10:00~18:00
定休日:水曜日(今後変更する可能性があるため、詳しくは公式インスタグラムをご確認ください。)
公式インスタグラム:@moksa.coffee

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