「すべての人の中に起こりうる物語です」。南伊豆がロケ地となった映画『いなくなれ、群青』公開記念。柳明菜監督にインタビュー【前編】 2019.10.16
2018年8月、南伊豆で映画『いなくなれ、群青』の撮影が行われた。
「いなくなれ、群青」は、作家 河野裕氏の青春ミステリー小説の実写映画化。階段島シリーズと呼ばれている。
主演を務めるのは、横浜流星さん(七草役)と飯豊まりえさん(真辺由宇役)。
今回、南伊豆新聞は本作の監督、柳明菜さんにインタビューを依頼。
なんでこんな小さなローカルメディアが柳監督に取材ができたのか、疑問に持つ人もいるだろう。
実は南伊豆新聞は昨年、撮影スタッフのサポートに回ることもあった。
そんなご縁もあり、ありがたいことにインタビューを快諾してもらった。
インタビューでは本作の見どころや南伊豆の魅力を伺い、後半では柳監督の人となりにふれている。
※カメラマン 木下昂一さん
■せつなさとあたたかさ。この二面性が必要な物語だと思いました
南伊豆新聞(以下省略):「どうして今回、撮影場所が南伊豆だったんですか?」
柳監督:「『いなくなれ、群青』のお話をいただいて小説を読んでいた頃、知り合いを通じて南伊豆に偶然何度か来ていて。その時に、『あれ?もしかしたらここ階段島っぽいかも』って」
子浦地区は、南伊豆町の西側に当たる人口約200人が住む集落。
登場人物たちが暮らす階段島のモデルになった。
-どういうところが階段島っぽいと感じたのですか?
柳監督:「この作品には、美しくて、どこか懐かしくて、ちょっとだけ切なさもあって、だけど、誰かに優しく守られているような、あたたかさ。そんな空気感が漂う世界観が必要でした。ロケハンで子浦を案内してもらった時に山と海の音が近くて、階段が沢山あって、ノスタルジックで不思議な空間だったのを覚えてます。守られてるような感覚というか・・・。地元の方に話しかけるとすごく映画について関心持ってくれて。あ、感覚的にここだなって思ったんです」
柳監督:「あと、これは私の解釈ですが、階段島の魔女はとても優しい。なので、映画に入れた設定としては、人々に忘れられた日本の場所とか川とか海とか、そういうものも階段島にあるんじゃないかっていう仮説を立てたんです。だからすごく懐かしい場所にしたいとスタッフ同士で話しました」
■空き家だった集落が、物語の舞台に
-子浦の人たちはどんなやり取りを?
柳監督:「撮影で使う船を区長さんからお借りしたり、撮影スタッフの宿の手配、空き家だった場所をお店に変えたり、屋根に登らせてもらって雨を降らせたり(笑)」
-「もともと子浦は江戸時代に風待ち港として交易が盛んな場所だったんです。14代将軍の徳川家茂が嵐をしのぐために立ち寄った場所としても知られています。ですが、今は過疎化が進んでいるエリアでもあります」
-空き家だった路地が商店街に生まれ変わった瞬間は、個人的に感動しました
柳監督:「あの道はいいなぁって思いました。もちろんそのほかにも日和山からの眺めとか、灯台とか。思い入れのある場所はたくさんあります」
■原作のファンになった自分との葛藤
-撮影中、大変だったことはなんだったんですか?
柳監督:「えっと、全部大変でしたね(笑)。一つあげるなら天気。夏だったので台風がきていて、スタッフ全員がプレッシャーを感じていた。実際に台風きたし(笑)。後は音楽祭の撮影ですね。地元の方のご協力をお借りして、エキストラとしてたくさん参加していただきました。でも撮影が押して夜になっちゃって。いつも葛藤ですよね。こんなことをさせてまでっていう思いと、何をしてでもいいものをという思いと」
-小説の実写映画化ですし、かなりプレッシャーがかかりそうです
柳監督:「はい。すごく葛藤がありました。どこまで映画として分かりやすくするか。私は小説を読んで、原作のある意味ファンになったんです。小説4巻までの展開の仕方とか、スケールの大きさとか、本当にすごい。だけど当時は4巻までしか発売されておらず、まだ続きがあるという状態でした。なので、まだ答えが出てない問題を扱えなくてカットしたところもあるんです。でもそうすると、『いなくなれ、群青』ではなくなってしまう恐れもあり」
柳監督:「自分は原作のファンだっていう思いと、自分がやっていることを照らし合わせると、矛盾は必ず出てくる。だけど映画として考える方を優先していきました」
-“映画として考える方を優先する”って、どういうことなんでしょう?
柳監督:「例えば、原作の見どころとして、横浜流星くんが演じる七草の内面的なひとり語りが面白い作品なので、なるべくそれを描きたい。けどモノローグ(相手なしで言う台詞)で映画を埋めつくす訳にもいかない。だから、最小限に言葉をピックアップして、ある程度捨てるという選択をしなきゃいけませんでした」
-七草がどんな言葉をつぶやいているのかも注目ですね
■私の想像以上のものを役者たちが持ってきてくれた
柳監督:「この映画の一番の魅力は、等身大のキラキラした役者さんたちだと思っていて。本当に等身大の自分と作品の世界観を背負って、持ち込んでくれたと思っています」
-等身大の自分?
柳監督:「『いなくなれ、群青』は、登場人物たちが自分の内面的なもので葛藤する物語です。だから、ただ演じるっていうよりも自分の中の弱い部分とか、過去にあった葛藤とか、多分引っ張り出してきて。その生身の自分で演じてくれているおかげで、物凄くリアルになった」
柳監督:「飯豊まりえさんが演じた真辺は真っ直ぐで、一見ものすごく強いのに、ものすごく脆い。それが飯豊さんの等身大で持っているパワーが投影された役だなって。飯豊さんって、真っ直ぐさや天真爛漫なところは普段見えるけど、脆いイメージはあまり見せない気がします。でも、芝居に必要な危うくて脆い感情をちゃんと持ってきてくれて。最後のシーンはお芝居ってより、自分の中の本当は弱い部分を垣間見せてくれたような・・・。私はモニターを見ながら泣きました」
柳監督:「横浜流星さんは、特に難しい役だったと思うんですよ。内的な葛藤があるのに、表にはそれが出てないように見せる。真辺に振り回されて心が揺れ動くけど、頑なに自分を貫く」
柳監督:「なんていうか、七草も真辺も頑固で、強いですよね。でも脆い。物凄く二人とも難しい役なのに、私の想定以上のものを持ってきてくれました」
-その他の主要キャストに関してはどうですか?
柳監督:「全員こう、エネルギーを持ち込んだなって。演じるキャラクターと自分の共通項を見つけて、ちゃんと自分ごととして演じている。間違いなくこれからの日本映画界を担っていく役者さんたちなのでぜひ観てほしいです」
-柳監督なりに、こう観ると物語の魅力がより深まるっていう視点があったら教えてください
柳監督:「これをただのファンタジーとして観るよりは、すべての人の中に起こりうる物語であるっていう前提のもと観るといいかなと思います。誰もが階段島という場所を自分の中に持っていて、自分がかつて置いてきたもの、これからもう一度拾いたいものに気づける物語なんじゃないかなと思っています。もちろん伊豆のロケーションも綺麗だし、映像も美しいので、その風景も楽しんでもらいたいです」
インタビューの後半では、柳監督の人となり、映画を作る上で大切にしていることなどを伺います。
<公開情報>
『いなくなれ、群青』
9月6日(金)全国ロードショー
原作:河野裕『いなくなれ、群青』(新潮文庫 nex)
出演:横浜流星、飯豊まりえ、矢作穂香、松岡広大、松本妃代、中村里帆、伊藤ゆみ、片山萌美、君沢ユウキ、岩井拳士朗、黒羽麻璃央
監督:柳明菜
脚本:高野水登
音楽:神前暁
主題歌:Salyu「僕らの出会った場所」
主題歌プロデューサー:小林武史
配給:KADOKAWA/エイベックス・ピクチャーズ
(c)河野裕/新潮社 (c)2019 映画「いなくなれ、群青」製作委員会
公式サイト:inakunare-gunjo.com
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