ありがとう稲本さん! 7月1日、稲本精肉店が閉店しました 2018.7.6
よく通っていたお肉屋さんがあった。
それが稲本高行さんが営む稲本精肉店。
下賀茂商店街の通りにある。
最初に店主の稲本さんからその話を聞いたとき、雷に打たれたような気持ちになった。
「6月末でお店をたたむんだよ。だから取材はむずかしいな。ごめんね!」
え!え!え!閉店!?
な、なんで???
ちょっと他人事のように笑いながら話される稲本さんにも戸惑った。
閉店=取材できない?
いやいや稲本さん!
ならば、なおさらです。
今、稲本精肉店のことを取材したい、お話を伺いたいと強く思った。
稲本精肉店が閉店する。
忙しくてなかなか閉店できないねぇ(笑)。
稲本精肉店は、昭和36年創業のお肉屋さん。
約56年、南伊豆町で精肉業を営んでいる。
稲本さんのお父さんは精肉業をやりながら豚を育てる問屋も営んでいたそう。
「気づいたときには、ここで肉を売っていたな」と稲本さん。
稲本さんは三島の高校を卒業後、東京で働いていた。
しかし、お父さんの病気がきっかけで2年で南伊豆に戻って来た。
当時、2人いたご兄弟はそれぞれの場所で働いていたこともあり、稲本精肉店を継ぐのは自分しかいないと思ったそうだ。
「ヤダヤダと思っていたらいつの間にかこうなったよ(笑)。20歳の頃から豚を小屋から出して、さばいて、全部やっていたな」
それからずっと奥さんと田中さんの二人三脚でお店を営んできた。
「昔はよくここに小、中学生が来たね。最近は来ないな。買い食いはダメだと言われているんだろうね(笑)」。
なるほど。
昔は学校帰りにここで買い食いをした人もいたかもしれない。
稲本さんは、そういう景色の移り変わりも感じているだろう。
インタビューをして。
やっぱりというか、聞かなきゃならないと思ったことがあった。
「どうして閉店することになったんですか?」
稲本さんは、意外とあっさり答えてくれた。
「きっかけは機材の不調だね。もし新しく買い換えたとしてもそれを返済するためにまた頑張らなきゃいけないだろ? 俺も今年で62歳。『俺はそれを永遠と繰り返すのか』と思ってね。ここで一つ区切りをつけようと思ったのよ」。
それまで僕は安易に「稲本さん、続けてくださいよ!」と言っていたけれど、その話を聞かせてもらって背筋が伸びた。
お店を続けていくことも、「お店をたたむ」と宣言してしまうことも、簡単なことではないはず。
きっとそこに至るまでに、さまざまな思いがあるのだと思う。
「いやぁ~やめるって言ってから忙しくなっちゃてさ。3時にはスタートしているから新聞配達の人に負けてられねぇよ。なかなかうまく閉店できねぇな(笑)。結局閉店を1日伸ばすことにしたよ」
そんな話をするもんだから余計泣けてくる。
そして、これもどうしても聞きたかった。
「お店をたたんだ後の予定は決まっているんですか?」
「これからだよ!まだ全然考えてない(笑)。7、8月の2、3ヶ月の間はゆっくり休むよ。何して休むのかも決めてない。それからどっかで職でも探そうかな。わかんないけどね」
(うまーくかわされた気もするけれど)
稲本さんの今後が気になってしょうがない。
けれど、毎日朝早くからお肉を仕込んで、ずっと働いていたんだ。
まずはご夫婦ともどもゆっくり充電というか、休んでもらいたい。
「最後に、今まで通ってくれたお客さんたちに一言お願いします」と頼んだ。
とても長い沈黙の後、ちょっと小さい声でこう言った。
「・・・大きなお店がある中で、よくうちに来てくれたねって思うよね。ありがとう」
稲本ご夫婦、長い間おつかれさまでした。
どんな形かわからないけれど、また美味しいお肉を出してほしいです。
【稲本精肉店(*2018年7月1日閉店)】
場所:〒415-0303 静岡県賀茂郡南伊豆町下賀茂263−2
電話: 0558-62-0136
営業時間8:00〜18:00
定休日:日
※「南伊豆新聞を見たよ!」と伝えてくれると嬉しいです!
(稲本精肉店さんにメッセージなどあれば、ぜひコメント欄へ)
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