「蕎麦屋をつくる前に、ビールから作りました」。南伊豆町初のクラフトビールとお蕎麦が味わえる!『蕎麦切り明日葉』 2019.1.27
下賀茂商店街の通りに、『蕎麦切り 明日葉』はある。
明日葉は、南伊豆初のクラフトビール「明日葉ビール」が飲めて、手打ち蕎麦が食べられるお店だ。
※明日葉ビールは現在(2018年分)発売が終了。次回は2019年夏に向けて現在仕込み中。じれったいですが、それまで首を長くして待ちましょう!
お店の暖簾をくぐると、広々とした空間が広がる。
だが、いきなり戸惑う。
キョロキョロしていると、「こんにちはー」と店主の團之原栄介さんと、横山眞由美さん。
南伊豆新聞:「取材始める前に突っ込みたいのですが、、、、このバイクは一体?(笑)」
團之原さん:「僕の趣味です。蕎麦とは関係ありませんね(笑)」
南伊豆新聞:「・・・(早々に面食らう)」
團之原さん:「若い頃はよくバイクに乗っていたけど、その時はいいバイクを手に入れることができなかったからね。このバイクは少しずつ趣味で揃えていったんです。あ、でもいつか出前もやりたいと思っています。まだその余裕はないけどね(笑)」
南伊豆新聞:「バイクもすごいんですが、なんて言うかレトロな雰囲気ですね」
團之原さん:「旅館だった場所なので、この建物が持っている昭和感をそのまま残したくて。器とかもあえて当時のものをきれいにして使っているんです」
南伊豆新聞:「ではあらためて、このお店を始めたきっかけを教えてください」
横山さん:「どこから話せばいいかな(笑)。もともと私は神奈川の藤沢で育ちました。でも、私の父が50歳の時にここ(明日葉)を見つけて旅館を突然始めたんです。板前さんを雇って私の母がいきなり女将。私は藤沢で仕事をしていたので、別荘のような感覚でこっちに来ては両親の手伝いをしていました」
いきなり衝撃。横山さんのお父さん、思い切り良すぎ!
横山さん:「それから父が体調を崩してしまい、2005年に旅館を閉めました。その後も両親はここに住んでいましたが、維持費もかかるし、これからどうしようと・・・。その時に私が社長(團之原さん)の仕事の手伝いをしていたこともあって、売却の相談に乗ってもらったんです。親を見ていて『旅館を継ぐのは絶対に嫌だ!』と思っていましたし(笑)」
團之原さん:そうそう。それがきっかけで5年前(2013年)から月に1回くらいの頻度で南伊豆に来ることになったんです(笑)
2人は重治さんと話し合った結果、南伊豆町役場の「お試し移住制度」を使い、旅館を空き家として貸し出すことになったそう。
2人は地元の人たちと交流するうちに、自分たちが南伊豆で貢献できることはないか考えるようになった。
そして2人は、南伊豆の特産品を作ろうと思い立つ。
■ないなら、作ろうと思ったんです
横山さん:「南伊豆でジビエを扱う人たちと知り合ったのがきっかけなんです。『ジビエ料理に合う何かがあったらいいね』って。『南伊豆のビールってないよね。 ないなら、作ろう』と(笑)」
当初は蕎麦屋をやることは考えてなかったらしい(すごいことを聞いてしまった)
團之原さん:「素材は甘夏とかいろいろ試作したけど、それじゃあ普通だよなと思って。伊豆の人にとっては身近だけど、他所の人には珍しいものって何だろう・・・・『明日葉だ!』と思ったんです。今こうやって振り返ると、後先を全然考えていませんでしたね(笑)」
横山さん:「醸造場は伊豆で考えたこともあったんですが、既存の伊豆ビールと同じような味になるかもしれないと思って、2人で醸造場をいろいろ回りました」
團之原さん:「約3年、いろんなところに行きましたが、何度も門前払いされましたね。『こんなのやってどうするの?売れると思う?』と(笑)。醸造場さんからしたらそうですよね。自分の名前が出るわけですから変なものは作れないわけですよ」
(ゴクリ・・・)。2人の本気(熱意)が試されていたんだなぁ。
横山さん:「途中、本当に無理だと思いました。頼み込んで3年経って、やっと『何千本とかなら作ってもいいですよ』と言ってくれて。私たち、車の中でやったやったーって喜んだよね。そこからさらに、作るのに1年かけてビールができたんです」
こちらが、その明日葉ビール!
一口くいっと・・・いただきます!
あぁ〜(やっぱり)うまい!
ふぅ〜(鼻腔からホップの香りが気持ちよく抜けていく)。
地ビールが好きな人にはたまらないんじゃないかな。
2人のひたむきさに、なんて言うか・・・ちょっと言葉を失った(笑)。
「・・・あ!」
僕は、恐る恐る聞いた。
南伊豆新聞:「・・・お蕎麦はどうしてやることになったんですか?(笑)」
■やるしかないって条件が整ったんですよ
團之原さん:「結局ここを使う人が自分たち以外いないだろうなと・・・。あとは明日葉ビールが完成したタイミングで『よし、自分たちでお店をやろう!』と決意しました」
南伊豆新聞:「えぇぇ!失礼ですが、團之原さんは蕎麦を打つ経験はあったんですよね?」
團之原さん:「5年前(2014年)から手打ちそばの教室に通い始めていたんです。1年後には個人的に先生から教わるようになりました。2009年のリーマンショックがきっかけなんですが、不動産って波が激しいので、自分の中で一つ安定して稼げるものをやっていきたくて。いつか蕎麦屋ができたらいいなと思っていたんです。もともと蕎麦はずっと好きでしたし」
團之原さん:「あとは、僕が教わっていたお蕎麦の師匠もこっちに住み込みで手伝ってくれることになって(笑)。もう、『やるしかない』って条件が整ったんですよ(笑)。そういう波が重なったんですよね」
南伊豆新聞:「す、すごい・・・(いい言葉が出てこなかった)」
お待たせしました。こちらが明日葉のお蕎麦!
お蕎麦の中では、特に鰹節にこだわっているそう。
團之原さん:「僕は鰹節の出汁が好きなんです。鰹の出汁だけでも勝負できるもの。それが一番のこだわりかなぁ。蕎麦湯を飲むときに鰹の香りがきちんと漂ってくるようなバランスのつゆを作りたいと思っています」
團之原さん曰く、まだまだ試行錯誤。先生と一緒に少しずつ改良を重ねているのだとか。
そうそう、運が良ければ明日葉のお店にちなんだ「明日葉蕎麦」がメニューに並ぶときがある。
お店を始めるまでの4~5年間、2人はずっと水面下で動き続けてきたんだな。
南伊豆新聞:「実際にお店を始めてみて・・・今どういう心境ですか?」
横山さん:「私はね、楽しい。お客さんが来てくれて、『おいしい!』って言ってくれて、おしゃべりして。接客をするのが楽しいですね」
團之原さん:「僕はまだね、楽しいってよりは、苦しいと思うことの方が多いです。まだまだ慣れるまでには時間がかかります」
すごく正直な感想だなぁと思った。
お店を始めてみて、2人の実感がこもった言葉だと思ったし、取り繕っていない。
今の言葉を聞かせてもらえて嬉しかった。
團之原さん:「僕の場合、今はどうしても苦しいことに目がいっちゃうけど、遠くからお客さんが来てくれて嬉しいですね。もちろん、地元の方もね。ほんとにありがたいなあと思います。いつになるかわからないけれど、もう少し落ち着いたらそば教室もやれたらいいなと思うし、まだ秘密なんですが、他にもあたためている企画があるんですよ(笑)」
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新しい事業を始めようとしている人がいる。
人によってそのカタチはさまざまだけど、実際にカタチにした2人の熱量はすごい。
お店を始めるということは、とても覚悟がいることだと勝手ながら思っています。
2人がむしゃらに動いた時間をちょっとだけ想像しながら・・・お蕎麦とビールを一杯、いかがでしょう?
※今期の明日葉ビールの予約注文も受け付けているそうです。詳細は蕎麦切り 明日葉まで!
【蕎麦切り 明日葉】
場所:〒415-0303 静岡県賀茂郡南伊豆町下賀茂209-3
電話:0558-36-3100
営業時間:11:30~22:00(21:00ラストオーダー)
定休日:水曜日。第2、4火曜日
※「南伊豆新聞を見たよ!」と伝えてくれると嬉しいです!