南伊豆新聞は南伊豆の粋な情報を発信するWEBマガジンです。

女将のやさしさと焼き鳥が名物。 やきとり 泰平

00001

伊豆急下田駅から車で30分。

下賀茂商店街のなかに、その焼き鳥屋はひっそりとある。

“ひとけの少ない”路地を曲がり、川沿いへ向かうと見えてくる。

やきとり屋泰平(昼は準備中)

やきとり屋泰平(昼は準備中)

夜は街灯が少なく、あたりは暗いので、この灯りを見つけてほしい

夜は街灯が少なく、あたりは暗いので、この灯りを見つけてほしい

扉を開けると椅子に座った女将さんがカウンター越しに出迎えてくれる。

たまに、いない場合がある。そのときは「すいませーん」と大きな声を出してほしい

たまに、いない場合がある。そのときは「すいませーん」と大きな声を出してほしい

「いらっしゃい」と女将さん。

カウンターに腰掛けると、さっそくお通しが出てきた。

お通しはその時期に取れた地元の山菜。

「タケノコの煮物」。春はわらび、明日葉。夏はぬか漬けのきゅうり、かぶ、人参。秋はなます、おからなどが出てくるそう

「タケノコの煮物」。春はわらび、明日葉。夏はぬか漬けのきゅうり、かぶ。秋はなます、おからなどが出てくるそう

 

何が人気か尋ねると「煮込み」と教えてくれたので、それを注文。

煮込みをグツグツとあたためている間、女将さんは「ごめんね、椅子に座らせてね」とすこし申し訳なさそうに座った。女将さんを本当は写真で紹介したかったが、照れられたので似顔絵で。

 

みんなが歌ったり、踊っているのを見るのが好きだな

泰平は昭和54年4月1日に開業。

女将の渡辺範子さんが、35歳のときにはじめたお店だ。

範子さんはこの場所で39年間(2018年時点)、お店に立ち続けている。

味噌ベースの煮込みは一つひとつの具に味が染み込んでいてうまい。七味をかけると、なおうまい。

煮込み。煮込みは味噌ベースで一つひとつの具に味が染み込んでいてうまい。七味をかけると、なおうまい。

そうそう、焼き鳥屋だったことを思い出し、焼き鳥を注文。

女将さんがその場で、肉を切り、串を通していく。

焼き鳥の盛り合わせ。一本120円。事前に予約を入れると串の種類が増えるかも

焼き鳥の盛り合わせ。一本120円。事前に予約を入れると串の種類が増えるかも

範子さんは昭和19年生まれ。疎開先の茨城県で生まれた。

戦争が終わると、家族で実家の南伊豆の二条に戻る。

範子さんが14歳のとき、お母さんを病気で亡くし、弟の面倒をみたり、畑仕事を姉と一緒に手伝った。学校から帰って来ると家族で稲刈り、稲こき、麦踏み、田植え。それが終わるとおばあちゃんと一緒に料理を作った。

0008 copy

「田んぼはもう見たくねぇ。それくらい働いたさ」と、料理を仕込みながら話してくれた

範子さんが17歳のときにお父さんが再婚。家族にとても気を使っていた時期もあったという。息抜きは休日に映画館へ行ったり、劇団の一座が来たときは演劇を観に行ったとか。

冒頭で“ひとけの無い”と書いた。

しかし、40年以上前の下賀茂商店街は、大変な賑わいを見せていた。

範子さんが小中学生の頃、泰平のある通りはちょっとオトナなネオン街もあって、子どもが行ってはいけない場所だったらしい。

現在の下賀茂商店街。正直、今はその面影はない。

現在の下賀茂商店街。正直、今はその面影はない

当時、範子さんの一番の楽しみは黒船祭。

「お父さんから『田植え仕事が終わったら行っていいよ』って言ってくれてね。嬉しかったねぇ。友達と一緒にお祭りに出かけたよ」

範子さんが友達とお祭りに行く風景を思い浮かべる。

たぶん、今の学生がお祭りに向かう姿とあんまり変わらないんじゃないかな。

高校卒業後は地元の農協に就職。そこで夫の忠義(ただよし)さんと出会う。

範子さんが19歳のときにご結婚。お子さんが生まれたのをきっかけに退社。

若かりし頃の範子さん。右は範子さんが幼い頃の家族写真

若かりし頃の範子さん。右は範子さんが幼い頃の家族写真

それからは子育てとアパート経営、畑仕事などに勤しんだ。

昭和53年。南伊豆では有名な話だが、水害の影響で河川改修工事が行われた。

範子さん夫婦は家を手放すことになり、家を新たに建てた。

それが今の泰平だ。

お店の由来は、天下泰平の「泰平」からとったもの。

「『天下泰平の泰平はどうだろうか?』ってお父さん(忠義さん)に言ったの。来た人が天下泰平のような人だったらいいねと思ってさ」

突然豆腐が登場。頼んでないけど、出てくることもある!

突然豆腐が登場。頼んでないけど、出てくることもある!

取材も一通り終え、お酒がすすむ。

この日のお客さんは僕だけ。

僕は、このまちに来てからのこと、ここに来るまでの経緯を女将さんに話した。

なんとなく「女将さんにならなんでも話せるな」と思った。

範子さんは「実家のお母さんも心配してるだろうねぇ」と、ずっと僕の話を聞いてくれた。

何度か泰平に通うようになった。写真は後日撮影

何度か泰平に通うようになった。写真は後日撮影

範子さんは飲食店で働いた経験はない。

しかし、“範子さんならできるはず”と、忠義さんが開業を後押ししたそう。

「昔はお父さんが人を家に連れてきてさ。そこで私が話している様子を見て、女将に向いていると思ったんじゃないかね」

僕も、それはすごく納得した。

僕は焼き鳥を食べに来ているというより、範子さんに話を聞いてもらっているような感じがあった。

とにかく、範子さんは人の話をじっくり聞いてくれる。

いつの間にか、僕はこの店に設置されているカラオケで歌うようになった。

カラオケは苦手だけど、ここで歌うカラオケは楽しい。

歌に合わせて、のりちゃん(敬意を込めて)が音頭を取って盛り上げてくれる

歌に合わせて、のりちゃん(敬意を込めて)が音頭を取って盛り上げてくれる

のりちゃんは日本舞踊を10年習っていたこともあって、着物の立ち振る舞いが素敵だ。

「この仕事は毎日着物を着るから習ってみたのさ。着物を着ると背筋が伸びるでしょ?ピシッとしてさ。でも今は着物が綺麗にみえなくてね」と少し落ち込む。

昨年の10月13日、のりちゃんはお店で足をつまずき、転倒。そのときに背中を悪くした。「鏡を見たとき、背中が曲がっている自分を見て落ち込むことがあるのよ。でもね、お父さんが「何をくよくよしてるんだい」って言ってくれるの。私はね、お父さんに励まされて生きているのよ。いい男なの」とちょっとのろける。

日本舞踊を披露する範子さん。

日本舞踊を披露する範子さん。「この時の写真なら公開してもいい」と許可をもらった

忠義さんがお店に立つことはない。けれど、この泰平が生まれたのも、のりちゃんが今もお店に立っているのも、忠義さんのおかげかもしれない。

「お店をやっていて嬉しいときは、楽しいお客さんがきて、カラオケを歌ってばかを言って人生論を語っているときだね。そんな時間がいいだなぁ」

「お客さんには政治経済の話はよしてください。面白くないからって言うの」

「お客さんには政治経済の話はよしてください。面白くないからって言うの」

ここまでを読んで、どう思いましたか?

お料理の話、あんまりしていないですね。笑

このお店はただ、「焼き鳥がうまいお店」というカテゴリには入れずらい。

もちろん焼き鳥、美味しいです!

なんて言ったらいいんだろう。

せっかくなら、焼き鳥を食べて終わりじゃなくて、のりちゃんと話してほしい。

それを含めて、「やきとり泰平」の楽しみ方な気がする。

たとえば、少人数、もしくは一人でふらりと来て、自分のことを話してみてはどうだろう?

もちろんおつまみとお酒をお供にして。

そこでもし、のりちゃんがOKだったら、

のりちゃんのカラオケ十八番「津軽桜」をリクエストして欲しい。

歌詞を南伊豆バージョンにアレンジして歌ってくれる。

お会計はたまにそろばん。こっちの方が楽なんだとか

お会計はたまにそろばん。こっちの方が楽なんだとか

僕はお会計でそろばんを使っている人を見たことがなかったので、思わず「オォ!」と叫んでしまった。

最後に。予約を入れるとのりちゃんが着物を着て待っています。

なので、必ず事前に予約を入れることをお勧めします。

突然行くと、たまに私服です。

 

【やきとり 泰平】

場所:〒415-0303 静岡県賀茂郡南伊豆町下賀茂305-1

電話: 0558-62-0646

営業時間:18:30~22:00

定休日:日

料金:2000円~4000円

※「南伊豆新聞を見た」と伝えてくれると嬉しいです!

泰平漫画

 

Share (facebook)