「地元の人とか移住者とか俺にはあんまり関係ない(笑)。横のつながりができる場所になれば」。 一度は閉園したけど、いつの間にか無料開園。「下賀茂熱帯植物園」 2018.12.24
南伊豆町、下賀茂商店街にひときわ目をひく場所がある。
それが、下賀茂熱帯植物園だ。
中に入ろうと思って入り口を見ると、、、
館内に入ると・・・。
「いらっしゃい!どうぞどうぞ〜」
丁寧ながらも陽気なノリで話しかけてくれたのは、三代続く植物園のPR担当、安藤広和さん。
今回は3代目の広和さんに焦点を当てて、お話を伺った。
「じゃあ、もう無料で!」ってことにしたんです
ここは入園無料の熱帯植物園です。主に植物の販売レンタル業と喫茶スペース。あとはスペース貸しが中心です。今はここでライブをやったり、フリーマーケットをやったりしています。
この他にも、高校の創立70周年パーティーや、小学生の父母会の打ち上げ場所にもなったりしている。
ここは、Wi-Fiも完備。コワーキングスペースも受け入れているそうだ。
「植物園」っていう枠組みを超えている・・・。
-この熱帯植物園ができるまでの経緯を聞かせてください。
始まりは俺の祖父からです。もともと祖父は東京生まれなのですが、学生時代に南伊豆へ来たとき、温泉と温室栽培に目をつけたんです。それから祖父は学業をやりながら、ここで温室メロン栽培を始めました。
和泉さん:ですが、学生との両立は難しかったようです。父は東京農大を中退して本格的に南伊豆に移住して温室メロン栽培を始めました。1932年のことです。その後は戦争で南方に向かうことになり、園芸の経営を途中断念したんです。それから終戦(1945年)を機にもう一度ここへ戻ってきたというわけです。
戻ってきた広さんは、切り花や鉢花の栽培事業を起こし、園芸業を再開した。
-この熱帯植物はどうやって広がったんですか?
広和さん:祖父が若い頃、趣味が海外に行くことでした。そこで苗木を持ち帰って植えたそうです。当時は飛行機で苗木を持ってこれたらしくて(笑)。
和泉さん:戦地で見た熱帯植物が魅力的だったとも言っていましたね。
こちらが植物園(写真は一部)。現在は100種類以上の熱帯植物が植えてある。11月から4月までは温泉熱のおかげで温暖な気候が維持される。
正式に植物園として開園したのは、昭和37年の1月。
最初は無料で始めていたけど、時代はバブル。
植物園にあるレストランは、毎週列ができるほど人が来たらしい。
広和さん:バス会社が「この植物園を観光コースに入れたいから有料にしてくれ」と頼まれてね。祖父たちは『何度でも来てもらいたいから』と50円からスタートしたそうです。今から50年以上前の話だね。
広和さん:でも、4年前(2014年)から観光の波が厳しくなって。最後は500円まで値上げしました。だんだん従業員も抱えきれなくなったので観光から撤退して、植木販売と喫茶スペースだけにしたんです。
広和さん:追い返すのも悪い気がして。だから、『散らかってるけど、どうぞ』って形で植物園を案内したんです。そしたら噂が広がってまた人が来るようになって。一回閉めるって言っちゃったし、『じゃあもう無料で!』ってことにしました。
えぇぇー(ゆるい)!!!!そんな経緯が。。
※和泉さんは仕事に戻られていった。
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南伊豆の景色だけじゃ、もうお客さんって来ないんじゃないかなって思うんですよ
-話は変わるのですが、広和さんは、そもそも植物は好きだったんですか?
いや、そんなに好きでもなかった(笑)。でも、小さい頃から夏休みとか手伝いをやらされてたわけ。ほんとは体育の先生になりたかったんです。
「でも家の家系的に『絶対に農大は受けろ』と言われて。特に祖父からね。だから一つだけ農大を受けて体育大を3つ受けたんです。でも、体育大は全部落ちて、なぜか農大が補欠合格・・・」
はぁぁ。
僕は、安易な言葉だけど・・・そういうご縁というか、運命だったのかなと思ってしまった。
「でもね、農大に行ったけど、ほとんど学んだ記憶はないですね(笑)。先輩に勧められて大学2年の時から造園会社でアルバイトをやりました。庭の木を切ったり、掃除したり、JR蒲田駅の花壇を管理したり。大学を卒業してからも、そのバイトをやっていました」
「その頃、植物園を管理していた叔父から「一人で営業をしていて人手が足りない。お前は園芸より喋る方が向いているから、営業を手伝ってくれって。すこしやってくれたら、また東京に帰ってもいいから」と言われて戻って来たんです。そしたら俺が来て半年でここが火事になったんだよね」
「片付けをしながら、『もうこっちでやるしかない』って思ったんです」。
それから安藤さんは腹を決めた。
地元の消防団や商工会青年部などに入り、徐々に地元に関わっていった。
例えば、南伊豆の温泉街の旅館の跡取りたちと交流会を企画したり、2月に行われる桜祭りの企画や、マラソン大会などの誘致サポートをしたり。広和さんなりに、横のつながりをつくっていこうと奮闘した。
今は熱帯植物を観るだけではなく、イベント会場としても機能しているんだな。
「最近は移住の人が増えているんだけど、移住した人たち同士が集まれる場所は少ない。ここでコミニティーをつくってもらいたいですね」。
-なんか、いい感じでお節介なんですね。兄貴肌というか(笑)。
よく言われます(笑)。移住者の方からも「僕ら(移住者)がやっているイベントに、よく顔を出してくれますよね」って(笑)。俺の中では地元の人だとか移住者とか関係ないから。頼ってくれたら『じゃあ一緒にやろうよ』って言える立場でありたいな、と」
「すいません、このまま続けますね(笑)。植物園をイベントスペースとして貸し出したのは今年(2018年)からなんです。だからこれからこの場所をどんどん売っていきたいです。例えば毎週ここに人が集まるような形が取れたらいいですね。商店街だけど、ここは人が集まる所が少ないから」。
最後に、安藤さんはこう言った。
「南伊豆の景色だけじゃ、もうお客さんって来ないんじゃないかなって思うんですよ。人が絡んでこないと。面白い人がいて、『あそこに行けばあの人がいるから行ってみたらいいよ』って所が増えていけばいい。だけど、こっちの人間(南伊豆に住んでいる人)で横のつながりができてないと「他に行くとこ?知らない、わからない」じゃね。みんなが案内人になっていけば、立ち寄る場所がもっと増えていくと思うな」。
お話を聞いて。
南伊豆の観光の変化を、三代にわたって経験している下賀茂熱帯植物園。
安藤さんたちは、どうやったらこの町と植物園がもう一度盛り上がるのか、ずっと試行錯誤をしている。
「自分のお店だけが盛り上がればいい」という雰囲気は全く感じられなかった。
頼りにしてます広和さん。
若い世代と上の世代をつなぐ、やわらかな考えを持った、頼れる兄貴でいて欲しい。
そんなことを思いました。
【下賀茂熱帯植物園】
場所: 415-0303 静岡県賀茂郡南伊豆町下賀茂255
電話:0558-62-0057
営業時間:9:30~15:00
定休日:水曜 ※祝日・年末年始・ゴールデンウィーク・みなみの桜と菜の花まつり期間(2/10~3/10)は、営業しています。
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