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地元の人が集まる海の見えるお店。親子3人で作りあげる、そば処渚

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県道16号線を車で走ると、そば処「渚」が見えてくる。

伊豆急行下田駅からバスで1時間。

本瀬海岸停車場を降りて徒歩3分。

海岸線を眺めていると、あっという間に到着すると思う。

photo1 お店の前から駿河湾を一望できる。ここから見える朝日がとても綺麗なんだとか

お店の前から太平洋を一望できる。冬はここから見える朝日がとても綺麗なんだとか

店内は地元の人や観光客が混ざり合う。

平日ならお客さんの9割が南伊豆に住む人だ。

そば処「渚」は家族3人でお店を切り盛りしている。

左から鈴木富士弥さん、哲弥さん、とみ子さん

左から鈴木富士弥さん、哲弥さん、とみ子さん

「南伊豆のいいところは自然かな。俺は毎日この景色を見ているけど飽きないよね。天気がいい日も雨の日も飽きないよ。人づてに『ここの景色がいいよ』って言うからそこへ行ってみても、ここほどじゃないな、とか思っちゃうよね(笑)」

そう話すのは2代目大将の鈴木哲弥さん。

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景色を眺めながら、うまいもんを食べて欲しいね

渚ができたのは1959年(昭和30年代)。

それまでは富士弥さんが漁師をやりながら製麺を飲食店におろす仕事をしていた。

そして、1969年にオープンした熱帯植物施設「石廊崎ジャングルパーク(2003年に閉園)」内に新たな事業として立ち食いそば屋「渚」を構えた。

渚の名前は、富士弥さんのお兄さんがやっていたお店の名前からとったものだ。

夏は今の場所で海の家もしていたそう。

本格的にここに移ったのはジャングルパークが閉店する2年前の2001年。

ここはお店でもあり、3人の家でもある。

海の家だった頃の渚。お客さんが描いてくれたイラストしか残っていない

海の家だった頃の渚。当時の様子はお客さんが描いてくれたイラストしか残っていない

哲弥さんが小さい頃はこのあたりの海で泳いで遊んだり、友達と山へ行ってイチジクやビワなどを取ったりして遊んでいたそう。気がついたらあっという間に1日が終わったという。

それから哲弥さんは進学校の下田北高に進学。野球に打ち込む日々が続く。

地元の人によると、ちょっとだけやんちゃだったそう。

photo6 ちょっと元気がよかったくらいだよ!と照れくさそうに笑った。

ちょっと元気がよかったくらいだよ!と照れくさそうに笑った。

哲弥さんはちょっとだけやんちゃ(元気)だったこともあり、卒業が危ぶまれる危機に直面。

しかし、それを機に猛勉強して東京の大学に合格。

受からなければ地元で就職するつもりだったそうだ。

東京の大学は2年で中退。

東京で飲食店のレストランスタッフやトラックの運転手として働いた。

時代はバブルの終わりを迎えていた。

「30歳くらいのときにバブルがはじけてね、仲間たちがどんどん派遣切りにあったんだよ。それが嫌になってね。親も自営業で大変そうだったし、こっちを手伝おうと思って戻ってきたよ」

哲弥さんがトラックの運転手だった頃は九州から青森まで全国のうまいお店を回ったそう

一緒に働いていた仲間たちがあっという間に解雇されていく。

それに戸惑いを覚える哲弥さんを思い浮かべた。

僕もそんな光景を見たら、これからどこで働くべきか、きっと考えただろうな。

それから18年間(2018年5月時点)、哲弥さんを中心にお店はまわっている。

渚のそば

渚の二八(ニハチ)そば。とろろがブレンドされている

渚はそばも美味しいけれど、丼物もおいしい。

特に人気なのは、天丼だ。

一番人気の天丼。〇〇、〇〇、〇〇、〇〇、〇〇、〇〇などの具がてんこ盛り

一番人気の天丼。海老、明日葉、玉ネギ、カボチャ、ナス、シメジの具がてんこ盛り

カツ丼。上にのったきざみのりとの相性が最高。注文を受けてから揚げるカツがうまい!

カツ丼。上にのったきざみのりとの相性が最高。注文を受けてから揚げるカツがうまい!

サザエ丼。地元で取れたサザエを使っている

サザエ丼。地元で取れたサザエを使っている

注文を受け取り、そこから料理を作るのも哲弥さん。

「漁師さん、常連さんにはご飯を多めに入れてあげたり、女性客が来たらご飯の量を少なくしてあげることもあるよ。家族連れだったら分け合うから多めに作ろうとか。そういうのは大事じゃない」

渚では麺類、丼物のほかにソフトクリームも販売している。

夏休みの時期になると、地元の子どもたちがソフトクリームを求めてやって来るそうだ。

渚のソフトクリーム。子どもたちだけで来たら100円にしている

渚のソフトクリーム。子どもたちだけで来たら100円にしている

哲弥さんの配慮や地元の子どもたちへの優しさを聞いて、渚が地元から愛されている理由がすこしわかった気がした。

「逆に、地元以外の人に伝えたいことってありますか?」と尋ねると、こんな言葉が返ってきた。

「忙しいときはサービスができないのが悲しいんだよ。だからほんとは平日の混まない時間帯に来て欲しいなって思うんだよ。ちょっとサービスするからさ(笑)」

photo:やってよかったと思うのは、やっぱり「美味しかったよ」「ありがとう」って言われるときかな。嬉しいよね

待たせてしまって、いい仕事ができなかったときは悔しいときもあるのよ。でもお客さんから「美味しかったよ」「ありがとう」って言われると嬉しいね

渚の定休日は、木曜日。

夕食は必ず、家族3人でとる。

月に1、2回、哲弥さんはとみ子さんの通院のため、下田の病院まで連れて行く。

「うちのお店は昼の11時から15時まで。『夜もやってください』って声もあるけど、二人とも80歳を超えているからね。無理のない範囲でやるようにしているよ」

富士弥さんが漁師をされていた頃は、その日に採れた伊勢海老が味噌汁になることもあった。

しかし、昨年(2017年)に漁師を引退されてから、その味噌汁はなくなった。

景観3

景観4

景観5

3人の連携プレーで一つひとつ、ご飯がつくられていく

渚というお店は、3人のチームで動いている。

誰かが欠けると、おそらくだけど味もメニューも変化するだろう。

「俺は独身だから本当は手伝ってくれるような嫁さんが欲しいんだけどね。こういう商売をしているとなかなかだね。結構やると面白い仕事なんだけどな(笑)」。

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渚のこれからのことを考えると、哲弥さんと働いてくれる女性はいないだろうかと、つい余計なことまで考えてしまった(もし、気になる方がいたら南伊豆新聞まで。繋ぎます!)。

ちなみに。

渚の味は、哲弥さんがトラックの運転手だったときに立ち寄った、忘れらないお店の味が反映されているという。

「若い頃は色々苦労もあったけど、無駄になっていないし、それが今に繋がっていると思っているよ」。

なんとも味わい深いコメント。

きっと一つひとつのご飯に、哲弥さんの思い出が詰まっているんだな。

最後に、このお店にはもう一つの楽しみ方がある。

お店を出て道路を横切ると、海岸まで降りることができる。

そこでぼーっと海を眺めることができるので、少し時間にゆとりをもって立ち寄って欲しい。

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海を見ながら、渚のソフトクリーム。

最高の組み合わせです。

もちろん、平日に行くのが一番ベスト。

【そば処渚】

場所:〒415-0156 静岡県賀茂郡南伊豆町石廊崎450-10

電話: 0558-65-0152

営業時間11:00~15:00

定休日:木曜日

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渚

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